すいません、ビニールありますか。

常ならぬ日々のこと。見聞きしたあれやこれやについて。平成生まれ。男性。東京都在住。フリーアルバイター。やや乱視ぎみ。

8/6

 家を出てお決まりの街角を四つ右に左に折れると、ジャスミンが咲く道路に出る。

 知らん顔して目と鼻の先を歩きながら、そうっと深呼吸して、うだるような暑さで

溶けてしまいそうな脳みそに白くみずみずしい空気を送る。

 朝の日課のひとつだった。

 雨の日などはほうっておいても、むこうから美しい香りを振りまいていたもので、前を行く、普段はそれどころではないといった感じのしかめっ面した大人もやおらきょろきょろとあたりを見回したりして、そのときばかりは親近感というか、安堵感を感じた。

 しかし、とうとう枯れてしまった。

 咲いた花なら散らねばならぬ、とは言え、やはり悲しい。私は最近エピクテートスを読んだ。いや、ほとんど読めているとは思えないのだけれど、とにかく、まったく自分の外側にあることに自分を傷つけられることのないようにしようと考えていた矢先のことだった。

 先日、いつもとは違う道を一本入ってみると、猫がいた。

 かわいいなあ、と心のなかで手を振り、通り過ぎた。するとすぐ先に猫がいる。通り過ぎる。また先に猫。

 私は通りの終わりまできて、振り返った。ここは猫の道なのか、それともあれは道の猫なのか。

 昨日、ふたたび通ってみた。猫がいた。黒、灰、トラ。四匹。

 私は新しい道を見つけた。すっかり気分は上向きになった。曲がる角をたったひとつずらしただけ、それだけのことだった。