すいません、ビニールありますか。

常ならぬ日々のこと。見聞きしたあれやこれやについて。平成生まれ。男性。東京都在住。フリーアルバイター。やや乱視ぎみ。

ぶらりぐだり北九州の旅 中篇

 博多に着いた我々はまず、公園のベンチに腰かけ、きたる本場九州の豚骨ラーメンに箸をかけるそのときを、いまかいまかと待ち望んでいた。今回の旅行は、いわば食のお遍路である。

 私は痩せっぽっちなので小食と思われがちだが、胃下垂なだけで常人よりはよっぽど食べる。そんな私よりEはもっと食べる。Tは下手するとEの倍食べる。


 我々は開店とほとんど時を同じくして店内に飛び込み、高速で店の外へ飛び出した。博多ラーメンといえば我々のような大食漢といわずとも替え玉はマストだが、直後にチャンポンをはしごする計画になっていたため、泣く泣くご飯や餃子もろとも諦めた。
 しかしプランは例に漏れず穴だらけで、いざという段になって目的地のいくつかが定休日であることに気付いた。これは今回の旅の中で著しく見られる傾向のように思えたが、日曜日を定休にしている店が東京に比べてとても多い。我々はこのために悩まされた。商売根性がなんだ非正規雇用の人間が偉そうに言ってみたが、すべて自分たちの詰めの甘さに由来することは言うまでもない。


 だが結局ラーメンを食べた二時間後にはしっかりチャンポンを食べた。卑しいほどに食い意地が張っている我々は、満腹のせいもあってか、ついにしつこく付きまとう眠気に膝を折られて、いったんマンガ喫茶で仮眠をとることにした。Tだけは桜祭りとやらを観光しに出かけたが、とくに感想を持ち帰らなかった。


 二時間後に起きるなり、今度はもつ鍋を食べに出かけた。正直あまりお腹も空いていない。当然である。二時間感覚で食事を摂る人間など現実に聞いたことがない。
「よっぽど美味しくでもない限りは、さすがにちょっと厳しいかなあ」なんて、さすがの我々も道中はすこし尻込みしていたものだった。だが、どうやらよっぽど美味しかったようである。引くほど食べた。味噌が濃厚で野菜が進む。明太子も酢もつもべらぼうに美味い。鍋を食べれば決まって戦争になるはずの面子なのに、あまりに美味しいものだから我が儘に欲張ると友情にヒビが入ることを直感で察し、これによって譲り合いの精神が芽生えてくるほどだった。さっきまで「つっつく程度にしておこうか」などと言っていたのはどこ吹く風、気付けば四人前近い雑炊を美味い美味い言いながらガツガツかきこんでいる。正気の沙汰じゃない。まるで獣である。動物である。ここまでほとんど食って寝てしかしていない。霊長類を自称することもはばかられる有様だった。


 それから「とりあえず見るだけ。せっかくだから」なんて言いながら天神の屋台めがけて歩き出す我々は、胃袋の形をした人間に相違ない。《食べるために生きよ。食うために生きるな》とはソクラテスだったかフランクリンだったか、だれの言葉か忘れたが、きっと我々の姿を見たら偉大な学者も腕力に訴えてぶっ飛ばさずにはいられないだろう。


 博多から新幹線で熊本に着いた我々は、ホテルで二つしかないベッドの利用権を奪い合いしたりなんだりしたのち眠った。翌日は早朝から阿蘇にむけて出立するプランであった。