すいません、ビニールありますか。

常ならぬ日々のこと。見聞きしたあれやこれやについて。平成生まれ。男性。東京都在住。フリーアルバイター。やや乱視ぎみ。

9/8

円地文子という作家を知った。いま二冊目の全集を読んでいるところ。 どうしていまのいままで知らなかったのかと思う。図書館でかたっぱしから、なるたけネームバリューに混乱させられることのないよう作者の名前を見ないよう手さぐりで読み進めたなかで、も…

9/7

秋の虫が鳴いている。夏が去った。 夏の空の青さや雲の白さや木の葉の緑が冴え冴えしているのはいつも目のまえではなく頭のなかにあるときで、どんなに経験則から学んでも、来るべきその瞬間になると強すぎる太陽光にあてられてあちこち朦朧としてしまう。 …

短い夢。大勢から蔑ろにされ、父を打ち殺し、祖母の肩を抱いて泣きながら言った。ごめんね、もう会えない。この世のなによりも愛している。デジャヴュ。涙もろくなりつつあるのは健康にとってあまりよい傾向ではない。近頃たびたび記憶のどこか光の中に立っ…

8/21

〝主役になれ。そうでなければ、人生になんの意味がある?〟 打ちのめされている。大傑作だ。 クッツェーの『遅い男』を読んだ。 主人公の男はオーストラリアの地で「悠悠自適」な生活を送る六十代。独身、子供なし。それから片足もない。 私と彼の共通点は…

8/16

あわてて両耳を手でふさいだが、手遅れだった。 「不幸は欲望と能力のギャップにある」 ルソーの言葉らしい。 嫌な夢をみた。 わたしはとくに親しい友人を殺害した。しかしまたたくまにふたり目の彼がひょこりと現れて、わたしのとなりで自分の屍を見ながら…

8/11

友人から電話がきた。友達、と言える人からの電話はとても久しぶりのことだった。着信履歴をしばらくさかのぼっても見つけられないほどには。 旅行に行こう、とのことだった。その友人とは、春先に北九州へ一緒に行ったTと、電話口の奥でけらけら笑っているE…

8/10

今日、となり合わせたひとは夏風邪をひいていた。 彼女はひっきりなしに咳き込み、くしゃみをし、鼻をかんでいた。けほっけほっ、くしゅん、ちーん。そんなふうではなくて「げほっげほ。はああっくっしょい。あああ、ずずずずず」といった感じで、私はそれに…

8/7

『ダロウェイ夫人』を読み終えた。 この小説は構想の段階では『時間』という題がつけられていたらしい。 先を急ぐ快速電車に追い抜かれる鈍行車両のなかで、むかいのホームに立つ親子の、母親に手をつながれた女の子と目が合った。電車が動き出すまで目をそ…

8/6

家を出てお決まりの街角を四つ右に左に折れると、ジャスミンが咲く道路に出る。 知らん顔して目と鼻の先を歩きながら、そうっと深呼吸して、うだるような暑さで 溶けてしまいそうな脳みそに白くみずみずしい空気を送る。 朝の日課のひとつだった。 雨の日な…

8/4

母に会った。妹の手術のためにひとり上京してきた田舎者の母親からの誘いを無下にすることはできなかったので、電車賃にしぶることはやめにした。 大手町で待ち合わせた。いかにもハイソな感じのビジネスマンのあいだを縫って、丸の内のまんなか、時間に遅れ…

8/1

昨夜は布団に入ったまま一睡もしないうちに朝を迎えた。あまりにも眠れないものだから、パソコンのランプがちかちか明滅する暗闇のなかで瞳孔が開いたり閉じたりするのを何度も繰り返し観察したり、しまいには見えるということのあやふやさや、眠るようにと…

7/31

たとえば右から左に行くとする。片側一車線の一方通行であれば迷う必要もないし、そっちに進むだけ。ただ対向車がきたときには、対処することが難しい。こっちが折れるか、むこうが折れるか。でなければ正面衝突するか。 車線が多ければ、どうか。選択に幅が…

7/30

先日、仕事終わりに飲み会が開かれた。私抜きで。 どうやらそれはビアガーデンで催されたようだった。蒸し暑い夏の夜に冷たいビール、野外で食べる美味い料理、どんちゃん騒ぎ。さぞかし盛り上がったことだろう。 「でも、もし誘ってたらきてくれました?な…

7/28

しかし満員電車には慣れない。 そろそろ二か月が経とうとしているが、日々重たいバッグと溜息と吹き出る汗と、常備ワンセットの通勤である。 やっとこさ目的地に到着し、突き飛ばされるようにして出てきたばかりのドアを振り返りながら思うことは、なにかが…

わが青春の名はaiko

人には好き嫌いがある。関心の有無がある。 「太宰治?はいはい、それって『羅生門』書いた人っしょ?」――よろしい。 「イングマール・ベルイマン?だれそれ知らね、サッカー選手?」――結構。 「ハウス・オブ・カード?ロイヤルストレートフラッシュ的な?」…

思い出すこと【千葉暴走】後篇

TOHOシネマズが入っているショッピングモールの中で、私は開場までのあいだフードコートの一角に座を占めていた。麺を2倍増しにした長崎ちゃんぽんをちゅるちゅる啜っている私の向かいで、高校生カップルが横並びに座ってずーーっとインカメで写真を撮ってい…

思い出すこと【千葉暴走】前編

昨夜、もんじゃ焼きをつついていた折、どういった流れでか忘れたが『ラ・ラ・ランド』の話が持ちあがった。 私はこのとき、忸怩たる思いがした。語り口がない。思えば、今年に入ってから一本も映画館で映画を観ていなかった。もともと閉所が苦手で集中できな…

「目標という言葉で事足りるところをあえて夢という口当たりのいい言葉に変換して自分の将来を盛んに語りたがる己惚ればかり一丁前の安い・浅い・薄いと三拍子を見事に揃えた天才的に退屈な人たち」と題して記事を書いていた。しかし書き終えてみてすぐに、…

ぶらりぐだり北九州の旅 後篇

大人三人が集っておきながら、出発予定時刻に遅れること三時間、チェックアウトの十分前になってようやく一人目が起床した。二人目三人目も眠たい目をこすりながら続く。どうも旅のプランはままならないのが常であるらしい。 外に出ると雨が降っていた。四月…

ぶらりぐだり北九州の旅 中篇

博多に着いた我々はまず、公園のベンチに腰かけ、きたる本場九州の豚骨ラーメンに箸をかけるそのときを、いまかいまかと待ち望んでいた。今回の旅行は、いわば食のお遍路である。 私は痩せっぽっちなので小食と思われがちだが、胃下垂なだけで常人よりはよっ…

ぶらりぐだり北九州の旅 前篇

天国をみた。 見下ろす白い雲は切れ目なく彼方まで広がり、ちょうど地平線のようにくっきりと、とある境界から上は一点の淀みなく冴え冴えとした青いばかりの空がかかっている。残すところ太陽を頂くのみとなった空は、空というより薄めた宇宙といった感じだ…

トマト

血がゲシュタルト崩壊した。こんなにも、なんというか、間の抜けた文字だったろうかと頭をかしげる。血で血を洗うとか、血は争えないとか、血にまつわる穏やかじゃない言葉が世の中にはいくつかあるけれど、そもそも血の持つイメージが物騒だったりするけれ…

日におよそ平均して三時間、私はイヤホン越しに他人のおしゃべりを聞いている。 ラジオ、ポッドキャスト、リーディングブック。これらの音声コンテンツが三位一体となり、忙しいのに暇というある種の矛盾を抱えて手足のふさがった私(詳細は割愛)を楽しませて…

心中

目を覚ますと、アルストロメリアの白い花が一つ落ちてテーブルの上に砕けていた。 花瓶を洗い、水を替え、茎を切り戻しても、ぐったりしたまま依然として元気がない。だが残るいくつかの花にはいまだ頭を天にもたげ朗らかにほころんでいるものがある。 私に…

K太と会った。彼との再会は半年ぶりか一年ぶりか、記憶に曖昧だが、とにかく、顔を合わせたときの一言目は「久しぶり」であった。寝坊した私に文句を言うでもなく、またこちらからあえて謝罪するでもなく、我々はそれくらいに心安い関係である。 付き合いは…

昨日、つけ麺を食べた。同僚のKさんの勧めである。 私はつけ麺に懐疑的な人間であった。手を替え品を替え、麺を使った料理は昨今、東西に氾濫しているが、中でも、味はラーメンのような、形式はざるそばのような、それでいて新しい存在であるつけ麺を、私は…

開幕

2017年シーズンが開幕、今年も熱いプロ野球の季節がやってきた。 野球は面白い。サッカーやバスケットボールなどと比較すると、テンポが悪く冗長で飽きるという風な声をちらほら聞くが、我々野球ファンはその間にこそ緊迫のドラマを見て喜ぶ生き物だ。 私は…

思い出すこと【新潟弾丸旅行】 後編

高速道路に乗ってしまえば、さすがの我々も迷子になることはない。途中で一度どういうわけか河川敷のような場所に降り立ったが、それ以外にはまったく順調であった。 細かくサービスエリアに寄りながら、運転を代わる代わるに北を目指す。寒さが強くなり、霧…

思い出すこと【新潟弾丸旅行】 前編

前回、ノロウイルスに感染した過去を暴露した。これは文春も真っ青の記事であった。ジャーナリズムが根底から大きく揺れ動いた瞬間である。 とまあ与太話は置いておいて、書いている最中にふと思い出したことがある。流行り病に倒れた丁度その日、私には友人…

健康

寒い日が続く三月の暮れ。春分を過ぎ、世間一般には春の認識である。しかしはたして春は来たのか、いったいどこに来たのか。花粉と冷たい空気だけが身にしみる今日この頃にふとそんなことを思う。 昨年末、ノロウイルスにかかった。 おろおろする一方で、水…