すいません、ビニールありますか。

常ならぬ日々のこと。見聞きしたあれやこれやについて。平成生まれ。男性。東京都在住。フリーアルバイター。やや乱視ぎみ。

9/8

 円地文子という作家を知った。いま二冊目の全集を読んでいるところ。

 どうしていまのいままで知らなかったのかと思う。図書館でかたっぱしから、なるたけネームバリューに混乱させられることのないよう作者の名前を見ないよう手さぐりで読み進めたなかで、もっとも自分の感覚と響きあった文章の著者がこの人だった。

 『女坂』はまぎれもない傑作。さらにいくつかの読み終えた短編はすべてとてつもなく密度の高いもので、ひとつ読むごとに本から顔を引き剥がさなくてはならないほど、めくるめく、古典の教養に裏打ちされた美しい文章。

 作中でヴァージニア・ウルフの「自分だけの部屋」から引用しているところを見つけて、なるほどと思った。どうもこの時代の女流作家には惹きつけられるものがある。背筋が伸びていて、格好がいい。戦う筆を持っている。既得権益にとらわれた頭へ否をつきつける黒いインクのばつ印。

 『菊車』。三時間の道を主人公の女は電車で行く。もちろんスマホなどない時代。目は車窓のむこう。風光明媚な景色を書きおこして見せる円地文子の観察力は、仮に彼女が情報で満ちた現代に生きたとして、はたして変わらずにあり続けるものだろうかと、読みながら考える。スマホを持たないという試みが頭をもたげる。しかしこうして手軽に日記を書きつけることができることの捨てがたい利便性。このご時世。

 歴史のうえにあぐらをかかないこと、しゃんと踏みしめて立つこと。それだけのことが、なんと難しいことか。